Interview:森づくりコーディネーター✕企業
山がビジネスとして成り立つように、新しい取り組みをこれからも。
金勝(こんぜ)生産森林組合 組合長理事
滋賀県で初めてJ-クレジットを創出、山を価値あるものにして地域を元気に。
この仕事に携わる以前は何をされていましたか。
澤:昭和14年2月18日生まれ、当年85歳です。組合長を拝命して4期目に入りました。大学の農学部林学で砂防工学を学んだことから、当時の建設省(現、国土交通省)に入省。が、すぐに父が亡くなったので地元に戻り、滋賀県庁の土木で働くようになりました。土木部技監を退官後、建設コンサルタント会社の顧問を務めるかたわら、金勝生産森林組合からも声がかかり、組合長になって4期目、1期3年なので9年超になります。
企業との仲立ちをはじめたきっかけ、経緯を教えてください。
澤:組合長に就任してから初めて組合の経理の実態を見て、びっくりしました。立木の売り上げですが、うちは間伐を主にして年間1,000立米くらいしか販売していませんが、立米あたり6,000円の赤字でした。組合自体は補助金をいただいたりして一応黒字ですが、木材販売だけを見ると赤字。「これではあかんな」と思い、山がもつ多くの機能をビジネス化しようと思い立ちました。最初が森林認証、次がJ-クレジットです。両方とも滋賀県では私共の組合が初めて事業としました。
それで、創出したJ-クレジットは販売しなければお金になりません。なんとか企業に買ってもうべく、営業に全力を挙げました。今では硝子メーカー、ゼネコン、事務機器、船舶エンジンの会社など多数の企業に買っていただいています。現行プロジェクトは所有林489haの内、80haで1,600トンを創出しておりますが、順調に売り上げが増え、現在では在庫が少なくなってきており、さらに継続して新たに創出する準備をしています。現在J-クレジットを毎年買って頂いている企業様は29社に及び、さらに新しい形で森林整備にも参画して頂いている企業もあります。
企業へのPR、働きかけはどのように行っていますか?
澤:より多くの企業にアピールするためにホームページを開設してもらいました。
「J-クレジットや認証木材、カーボンオフセットなど、お気軽にご相談ください」と相談窓口の電話番号を大きく明示したりしています。イベントなどで直接企業の方にお話させていただくことも多いです。
さまざまな企業とのお付き合いが、生産森林組合経営の1つの柱。
企業の森の活動状況を教えてください。
澤:地元のゼネコン、三東工業社さんが植樹した「山桜の森」には、その企業さんが年2回手入れに家族で来られます。ホンダクリオさんは竹林の整備、これも10年近くなります。最近は伐った竹を、近江の奇祭「勝部の火祭り」で松明に使ってもらうようになりました。そういう企業とのお付き合いが10社くらいあります。
アカマツ林の整備をされているオムロンさんと、ヒノキの森づくりをされているカルビーさんとは、「琵琶湖森づくりパートナー協定」を活用して、商工会を立会いにして独自の協定を結んでいます。そういう形で対外的ないろんな企業さんとのお付き合いの中で、生産森林組合の経営の1つの柱をつくることができ、また、その企業の方々が色々な形で山に来られて、既存施設、道の駅なども経済が回ることになります。
三機工業(株)さんとお話しした最初に「良い展開になる」と直感。
企業さんとの具体的な協定事例〜三機工業(株)について
三機工業(株)さんは東京に本社を置く、建築設備関係の堅実経営の会社です。経営トップから経営方針、企業のサスティナビリティ経営戦略を聞き、非常に好感が持てましたし、意欲的で観光協会と私共との話合いの中でこれは良い展開になるだろうと直感しました。三機工業(株)さんからの「気に入った」と言っていただいたことが、本当に嬉しく、感謝でいっぱいです。
三機工業(株)さんの森について教えてください。
澤:私共の山は489haあるんですけど、協定林は5.7haで林道に沿い、アクセスしやすく、そんなに急峻じゃないので、森づくりの作業はしやすい場所です。三機工業(株)さんの社員さんたちは、東京と関西地域にお勤めの方たち、両方からいらっしゃいます。急峻な山ですと、作業が大変になりますが、ここは比較的地形がなだらかですので、観光協会とのイベントも実施しやすい。ですので、植林と保育管理が楽にできるこの森が適地ではないかと思いました。ここは、今年度皆伐を実施して再造林をします。秋には三機工業(株)の社員さんたちと一緒に植林を行う予定です。
協定地は向こう側に琵琶湖を挟んで比叡山も見えますしね。景観がとても良い所です。
県からの紹介ではありますが、東京に本社がある会社がたくさんある中、ここに白羽の矢を立てていただいたというのは光栄に思っています。
金勝生産森林組合ホームページより
山は面白い、山は可能性がある。ビジネスとして成り立つ山へ。
今後について考えていること、計画などはありますか?
澤:昔から日本人は山の木を徹底して活用していました。現在では、石油や天然ガスにとって代わられましたが、昔は木材は貴重なエネルギー源としても重宝されてきました。しかしながら、石油や天然ガスはエネルギー危機が起きれば永遠に供給が保証される物ではありません。化石燃料に取って代わるエネルギー源として必ず必要になる時代が再びやってくることを確信しています。木材は再生可能な資源であることが見直されるべきと思っています。
戦後ずっと植えて育ててきた山は今、伐期を迎え、大きな財産となってきています。森林は潤いのある環境を創ることはもちろん、私たちの暮らしを守り、森林浴と言われる健康面での効果もあります。
若い人に林業に関心を持ってもらうためにどうするかを、いつも考えています。新しい取り組みに関心を持ってもらう。ホームページを見てほしい。森林認証、J-クレジットにも関心を持ってほしい。先代から受け継いだ、貴重な山を若い次の世代の人達に、「山は面白い、山は可能性があるぞ」ということを認識して頂き、次の世代が意欲を持って引き継いで欲しいのです。
自分たちの山がいかに価値があるのかを知り、山がビジネスとして成り立ち、そして生業として成りんだという思いを持ってビジネスとして拡充するために、新しい取り組みをこれからもしていきます。そして、若い人が林業に関心を持って、山を継承してほしいと思っています。