Interview:森づくりコーディネーター✕企業
植えて終わりにはしたくない。
企業の森づくりを継続的にしっかりサポートします。
長崎県森林ボランティア支援センター センター長
自転車競技の世界から、森づくりの世界へ
この仕事に携わる以前は何をされていましたか。
東京の大学を中退して長崎に戻ってきて、もともと自転車競技をやっていたこともあり、スポーツクラブで8年運動指導をしました。それから今度はプラント関連会社に立ち上げから関わり、8~10年勤務したところで、たまたま長崎県森林ボランティア支援センターを県が立ち上げるので手伝ってくれないかと声がかかりました。それが平成21年で、22年からセンター長になりました。
長崎県森林ボランティア支援センターは、どのように企業との仲立ちをされていますか。
当センターは、県や市、県内全域の林業関係団体、専門家、森づくりボランティア団体などと幅広く連携し、新たに森づくり活動に取り組もうとする企業・団体等の相談窓口を一体的に行っています。企業からの問い合わせの多くは直接当センターに来ますが、県や森林組合などに問い合わせがあった場合も全てセンターに集約されます。
ここは県が立ち上げたセンターなので、県が協力的ですし、また、NPO法人地域循環研究所では、長崎県中山間地域ボランティア支援センター、長崎森林・山村対策協議会なども運営しているので、色々なところから情報が得られ、さまざまな人との繋がりもあります。そういう繋がりや情報、データベースなどもあるので、企業から相談を受けたら、「その内容ならあの人に頼めばいい」とすぐにわかり、実行できます。
まず、植樹をしたい、間伐をしたい、森林環境教育の場を探している、○○駅から30分以内の森がいいなど、さまざまな企業のご要望に合いそうな場所を見つけて所有者との調整を行い、企業にご紹介します。そこから実際にどんな森づくり活動をするのかを詰めて行き、森林整備協定を締結して、いよいよ活動が開始されると、オープニングイベント、記念植樹などのお手伝いもします。
最初に仲立ちをした企業の森は?
長崎県の企業の森第1号は長崎トヨペット・ネッツトヨタ長崎さんで、まず県の林政課に問い合わせがありました。間伐を主体にしたいということで、県のほうから手入れが遅れている県有林をフィールドに指定し、間伐や作業道整備などは森林組合に委託する形で、長崎トヨペット㈱・ネッツトヨタ長崎㈱「ハイブリッドの森」がスタートしました。平成22年に協定を締結し、5年ごとに更新して今は第3期となっています。平成31年からは森林環境教育としてクヌギの植栽なども行っています。
SDGsの広がりが企業の森づくり参加の追い風に
企業の森への関わり、最近の傾向は?
多くの企業が、最初の問い合わせでは「植樹をしたい」とおっしゃる。これはもう鉄板ですね。そこからその担当の方とじっくり話をして、現状は荒廃した森林を守っていくことが重要で、どうしても植えたいなら伐って植えることになりますねと丁寧に説明すると、ご理解いただける場合が多いです。
植樹の傾向として、最近は各地で広葉樹を植える動きがあるようですが、企業さんも昨年、スギ・ヒノキ林を列状間伐してそこにクヌギを植えましたし、企業の森のいくつかでは広葉樹を植えています。
企業へのPR、働きかけはどのように行っていますか?
以前から毎年、東京ビッグサイトでのエコプロ展にて、PRしていますが、あまり反応はなかったです。一気に反応が出てきたのはSDGsが広がって来てからで、急に問い合わせが増えました。問い合わせは県内だけではありません。県外の大手企業から問い合わせがあることもあります。その企業さんが自然豊かな長崎の森を全国にPRしてくれるのは嬉しいので、できるだけご希望に応えられるよう、丁寧に対応しています。
企業の森の活動状況、事例などを教えてください。
現在、長崎県内で7企業が企業の森を展開されています。県、市などの公有林が多いです。一部私有林もあります。
読売新聞西部本社さんの場合は、佐世保市の私有林です。私有林を敬遠する企業もあるのですが、読売さんは「佐世保市で森づくりをしたい」、どうしても佐世保市でという理由があり、何としても探してほしいと言われたので県に相談し、県の振興局が地域との繋がりで個人所有の竹林を見つけました。そこは放置された竹林だったので、伐採し、所有者の希望でクヌギ、サクラ、カエデなどを植えました。森林整備協定は1期5年の場合が多いですが、読売さんは初めて10年の協定を結びました。
樹種で言うと、九州電力長崎支店さんは雲仙の災害跡地の広葉樹林の復活、ホルスさんはヒメシャラ、九電みらい財団さんはもともと放牧地だったところに広葉樹林を作ります。
多くの企業が、植樹や間伐など一部の森づくり体験をして、あとは地元の森林組合などに委託する場合が多いです。でも中には、全部自分たちで手がけている企業もあります。ホテルマネジメントインターナショナルさんは、年に2、3回刈り払いなどに通って来ています。クロマツを植えて10年ぐらい経つのですが、その生長が見えて社員の方たちが喜んでいるそうです。
サイクリングで見つけた森が企業の森になったことも
楽しかった、苦労したなど心に残っていることがあれば。
九電みらい財団さんのケースですが、最初に相談があった時から「子どもたちが行きやすい駅から30分ぐらいの場所」という要望があったので、あちこち探しました。たまたま私がサイクリングで色々な森をみて回っていた時、「ここはすごくロケーションがいいなあ」と思う場所があって、車で走ってみると諫早駅からちょうど30分だったんです。「見つけましたよ!」と喜びました。
苦労したのは、地域のみなさんの理解を得ることでした。1年近く話し合いが続き、まとまったときは一番うれしかったですね。九電みらい財団の方々が本当に一所懸命で、意気込みがすごかったのが心に残っています。
「チューリッヒの森」について
長崎県西海市の雪浦という地域に、雪浦川という大きな川が流れています。その流域で、チューリッヒ保険会社さんの森づくりは行われています。早生樹であるセンダンの森づくりから、水源の森、生物多様性の森、循環利用できる森、災害に強い森、海岸の森づくりなど、上流域から下流域まで数カ所の森を1年毎に整備していくという、全く初めての取り組みなのです。
もともと県の林業職をしていた方が森林所有者側の立場で担当をされたので、流域の森はこうあってほしい、という森づくりへの想いが強く、それらが網羅的にこのプロジェクトに反映されています。最初、チューリッヒさんは、どこか一カ所の森を社員が遊びに来る場にできればと考えていたようです。それに対して森林所有者側から、森林と流域の課題解決を盛り込んだ大掛かりで情熱的な提案がなされ、次第に企業側も理解してくれ、私たちもコーディネーターとしてお手伝いすることになりました。
オープニングイベントには、チューリッヒさんの長崎オフィスの方々やご家族を中心に、地域の方々も加わり、合計100名ぐらいが参加されました。
このイベントがまた驚くことに、間伐、枝打ち、植樹、丸太の搬出、薪割り、広葉樹林の整理とチップ化、チップ撒きまで、フルコースをほぼ半日で体験するというイベントでした。普段イベントは私たちがプランニングや開催のお手伝いをしていますが、今回は西海市さんが提案したプランで、チューリッヒさんと西海市さんが中心となって実施しました。100人を5班ぐらいに分けて、全員が全部の作業を体験できるようなローテーションにして。あれだけのメニューを半日で全部実施したのは私も初めてでしたね。
実際に参加された方々の感想を聞くと、「本当に勉強になった」、「こんなに色々な作業があるのだと初めて体験できたのがすごかった」など、手応えを感じる声が多かったです。
コーディネーターとして、継続的なつながりのある関係性を
今後について考えていること、計画などはありますか?
今後は、企業が取り掛かりやすい森づくりを進めたいです。今現在は、規模が大きくてお金がかかることが多いのですが、社員さんだけで汗を流すような企業の森も欲しいなあと思っています。また、森づくり活動は、企業研修などにも絶対良いので、そのあたりをセンターでコーディネートできればいいなと思います。より多くの企業のお役に立ちたいので。
そして大切なのは、植えておしまいにはしたくない!ということです。そういう意味からも、企業の森をもっと増やして、色々な企業の担当者とみんなで勉強会みたいなことをしていきたいのです。今までは、最初に担当者が入ってきて仲良くなれても、その後あまり続かない場合もありました。なので、担当者同志の勉強会や飲み会などがあれば情報共有もでき、関係も活動も継続していくことができると思います。現在7社なのでそろそろかと。