活動事例
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NPO団体の概要
山村塾は、福岡県八女市黒木町笠原地区の2軒の農林家が、棚田と山林を守る取り組みとして1994年に会員を集めて始まりました。この地区は、起伏に富んだ地形を生かした棚田での米作りや八女茶の栽培が盛んで、約600年前に茶栽培が伝わった「八女茶発祥の地」としても知られています。
山村塾は、年間を通じておもに週末に、棚田での米づくりや山仕事、里山での交流行事がおこなっています。また、国内外から里山保全ボランティアを募り、元小学校校舎を活用した施設で10~80日間の合宿を実施しています。さらに近年は、頻発する自然災害に対し被災地の支援・復興にも積極的に取り組んでいます。
プロジェクトの概要と経緯
「パッチワークの森づくり」は、台風被害や手入れ不足によって状態が悪くなっているスギ・ヒノキ人工林を、針葉樹と広葉樹が入り混じる生態系の豊かな森にしていくプロジェクトです。
企業などから1口(1パッチ)10万円の支援金を募り、1パッチあたり15m×15mの範囲で針葉樹を伐採、そこに広葉樹を育てることで広葉樹の森を点在させることを目指しています。いただいた支援金は、調査、伐採、地ごしらえ、植樹、下草刈り、つる切りなどの森林整備のほか、支援者への連絡調整、ホームページを通した広報などに活用されます。
植樹は、15m×15mの伐採区にヤマザクラを5本植えるだけにしています。大規模な皆伐地ではないために太陽が一面に降り注ぐことはなく、草本はあまり生えません。カラスザンショウやハゼノキなど先駆性の樹木は生えてきますが、常緑樹だけを除伐してパッチワークの森に誘導しています。
KDDIとの協働による森づくりは、2009年から始まりました。
福岡県が企業と連携を促進する取り組みをおこなっており、その中でNPO側が企画書を提出し、関心を持った企業と協働して取り組むという枠組みがありました。この制度を利用して、山村塾が「パッチワークの森づくり」を提案したところ、KDDI九州総支社から支援を得られることになりました。
パッチワークの森づくりから始まったKDDIとの連携はその後も継続しており、毎年寄付金を受けているほか、年に2回のボランティア活動に毎回15~20人が参加しています。最近は、午前中に森づくり活動、午後は棚田の石垣のメンテナンスをおこなっています。
この寄付金は、2018年に始まった社員参加型の社会貢献活動「+αプロジェクト」によるものです。これは、社員がおこなった社会貢献活動に応じてポイントを付与し、積み立てられたポイントを1ポイントあたり100円に換算し、会社が寄付をする仕組みです。
実際に活動するにあたっての苦労・工夫
「パッチワークの森づくり」のやり方については、九州大学の朝廣和夫教授の調査協力や助言を受けて取り組んでいます。当初はコナラとヤマザクラを実験的に植えてみたところ、コナラの生育があまり良くなかったことから、その後はヤマザクラだけを植えるように変更しました。また、かりに植樹した苗木が順調に育たなくても、結果的に多様性の豊かな森になることが大事なので、伐採後に自然に育つ広葉樹を適当に残しながら、パッチワークの森へと誘導しています。
2012年7月の九州北部豪雨災害に見舞われ、パッチワークの森づくりに取り組んでいるフィールドに通えなくなってしまいました。災害後2~3年の間は、被害地支援に取り組みたいという企業のボランティア参加を受け入れるなど、計画通りには進んでいないところがあります。
変化・効果・成果、企業・参加者の声など
「パッチワークの森づくり」は、地主さんから喜ばれています。小区画を伐採して林内作業車を入れると、5m3ほどの木材を搬出することができます。地主さんには、木材の売上による収入から搬出にかかる費用を差し引いた金額を渡すことができます。
森づくり活動に参加する人たちにとっても、良いフィードバックがあります。「パッチワークの森づくり」の対象は4.5haあり、この広さの森を面的に整備するのは大変です。しかし、この取り組みでは15m×15mを小面積の少しずつ整備していくので、基礎的なチェーンソー技術を学んだ人は参加できますし、達成感を感じやすいサイズです。また、手入れ不足の暗い森が明るい森へと変化していくので、一般の方に説明するときに成果が伝わりやすいという特長があります。
今後の予定・展開
スギ・ヒノキを伐採したときには、地主さんに還元できるものがありますが、パッチワーク化した後は、目に見えるメリットを生み出せていません。森づくりを進めていくうえで除伐する木は、薪やグリーンウッドワーク(生木でつくる木工)の材料にはなりますが、何か地主さんから森づくりに関心を寄せてもらう仕掛けがあるとよいと思います。
一方、この仕組みは、多様性の豊かな森づくりを目ざすときに、さまざまな場所で展開できると思います。たとえば、自治体の公有林で、行政が企業と連携して森づくりを進めるさいに導入できるのではないかと考えています。
支援の協力や連携の希望など
山村塾は、さまざまな企業から協賛金をいただいたり、CSR活動を受け入れたりした実績があります。ただし、自主的に取り組む事業を中心におこなっていますので、企業との連携ばかりを積極的に求めているわけではありません。
企業との連携は、単発の活動を実施するよりも、継続して将来につながる活動の方が意義があると感じています。NPO側にとって、単発のイベントばかりでは、自分たちがイベント屋さんとして消費されていく一方になってしまいます。そうならにように、「パッチワークの森づくり」のように具体的な内容を提案し、企業の方に納得していただいてから取り組むようにしています。