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市民の森づくり

活動事例

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森林と人をつなぐインストラクターを派遣、各企業と話し合いながら具体的な活動内容を企画・実施

かながわ森林財団(現かながわトラストみどり財団)が1990年から養成してきた「神奈川県森林インストラクター」によって構成されている団体です。1992年に発足し、2008年にNPO法人となりました。おもに神奈川県の県民参加による森林保全活動や、企業・学校などの森林づくり活動の支援を通じ、参加される方々が安全に楽しく活動をおこなえるように、知識や技術面のサポートをおこなっています。
「神奈川県森林インストラクター」とは、県独自のプログラムによる養成講座を2年間受けて県から認定を受けた人です。2024年3月現在、18期の養成講座が進行中で、会の会員は300名近くになります。
今回は、理事長の黒川敏史さん、事務局長の佐藤恭平さん、県や企業との窓口と派遣インストラクターの調整をおこなっている野牛(やぎゅう)雪子さん、岡村寛さんにお話をうかがいました。

─ お集まりいただき、ありがとうございました。簡単に自己紹介をお願いします。

黒川:私は14期で10年くらい前に養成講座を受けました。私は理事長なんですけど、フラットな感じで上下関係などはあまりない組織です。ベテランの方はたくさんいますけどね、いまは若返りを図っているような状況です。
仕事はサラリーマンで、設計をやっていました。今でも一部仕事をしていて、空いているときにインストラクターの仕事をしています。

野牛:私は本職も似たような仕事で、公益財団で働いています。8期生でちょうど真ん中くらいですが、私より前は林業の手助けをするのがコンセプトで講習会をやっていたけど、8期頃から都会の里山とかに関心を引っ張っていこうというねらいに変わりました。
8期終了後はずいぶん活動していたのですが、その後しばらく遠のいて、6年ほど前から理事になって最後の奉公をしている感じです。

岡村:私は研究開発などをやっていまして、そこを退職して16期でインストラクターの会に入りました。現在は、企業関係のお仕事をやっております。

─ 団体の運営ははどのようにされているのでしょうか?

黒川:神奈川県では、県民参加の森づくり事業として、一般県民を森に連れて行って間伐や除伐などの作業をしてもらっています。私たちインストラクターの会は、その安全面や技術面の指導をやっています。指導者を育てるために、養成講座を開いているというかたちです。
企業関係では、だんだん森に携わりたいという企業が増えてきてまして。神奈川県には森林再生パートナーという制度があって、そこに登録した企業は、どこか適当な場所を見つけてもらって、そこに社員を送って森づくりの作業をおこなっていてですね、そこにもインストラクターが出て行って、お手伝いをしています。

インストラクターの活動の様子(写真左から:植栽、下草刈り、枝打、間伐)

佐藤 :神奈川県には、県の森林再生施策に賛同する企業・団体を対象に森林再生パートナー制度があります。その制度では、企業・団体は県が行う森林整備に5年間で300万円の寄付をします。さらに社員やその家族など企業関係者を集めて森林づくり活動を行います。一方、県は企業・団体が名前を付けることができる森林(ネーミングライツ森林)を設けます。また、企業が支援した森林整備によるCO2の吸収量の算定書を発行します。
それから、社員の方々が自ら出かけて、森林を整備してくださいと県から依頼されます。パートナーになった企業さんは、積極的に社員に声をかけて森林整備に行きましょうと呼びかけて活動をおこなっています。

─ 企業との連携はどのような手続きですすめられるのでしょうか?

佐藤:かながわトラストみどり財団(以下、トラスト)が、企業への派遣制度を持っていまして、いろいろな企業からの話を持ってきてくれます。その持ってきた案件について、会の中に募集を掛けてインストラクターを派遣するという業務をトラストからいただいています。インストラクターが活動するための経費は、派遣依頼元の企業から支払っていただきます。
具体的に取り組む際には、年の初めに県の担当からパートナー企業に、今年はどのような活動をされますかと問合せがあります。それに対して、企業はここでこういうことをやりたいですと県の方に出します。企業の担当は、場所は確保できるか、活動は安全にできるのか、道具はあるかといろいろ心配されますが、それは県、トラストで調整します。インストラクターについてはトラストに派遣依頼を出すと、トラストから私たちの会に回ってきて、会の中に募集をかけて、この日は、この場所に、この方とこの方を派遣しますと伝えます。その後、企業と派遣されるインストラクターと直接話し合って、その日の内容を決めたりして、当日を迎えるという感じです。
活動実績のあるパートナー企業とはそんな感じですすめるのですが、何をやっていいのかわからないというパートナーになったばかりの企業さんもあります。そういう場合は、野牛さんや岡村さんが企業を訪問して、こんなことをやってはいかがですか、こんなこともできますと提案して、企画が決まっていくというところもあります。

野牛:企業によっては、寄付だけで、活動はしないというパートナーもあります。活動をプラスととらえるか、マイナスととらえるのか。寄付の上、活動までさせられるのかと感じる企業と、これを社員の福利厚生の機会にも生かせてラッキーととらえる企業もあって、後者が増えてきたと思います。

佐藤:新入社員研修の1つとして、林業活動を実施する企業もいらっしゃいます。チームビルディングとかに生かせますからね。

自然観察の様子(写真左:自然観察会(水源林の集い)、写真右:自然観察の研修風景)

野牛:企業との取り組みの半分くらいはパートナーさんですが、それ以外からも問い合わせがあります。企業から直接問い合わせがあってトラストを紹介することもありますし、トラストに相談があって会への派遣要請につながることもあります。それをきっかけに、県のパートナー企業になるということもあります。
以前は夏休みに家族で参加して水遊びしたりクラフト作りしたりとお楽しみ系が多かったのですが、最近は作業系が中心になってきました。どの企業も、森づくりの作業を体験して、残りの時間を散策したりクラフトを楽しんだりしています。
規模の大小や社員さんの研修や親睦を目的にするところと、お客さんを呼んで、こういう森づくりを応援していますよと紹介するようなところもあるので、対象によってだいぶ違います。

各種イベントで人気の森の工作(切った丸太に顔を描いたドングリや木の実を飾り付け)

岡村:最近は、低学年の子どもたちに、森や木の体験をさせるようなものも増えています。
場所も、われわれが使っている丹沢の寄(やどりき)などのフィールドや、それ以外のところに、招かれてイベントをおこなうこともあります。たとえば、町のアウトレットパークや公会堂などまで出張することもありました。

やどりき水源林の集いでの様子
やどりき水源林までの地図

─ これまで企業と調整がうまくいかなかったこともありましたか?

岡村:1日2件とか日程が連続したりする場合があるものですから、インストラクターの数をそろえるのに苦労します。

野牛:希望に添えないのは日程調整ぐらいですね。内容で調整できずに断ったことはないです。
そして、いまプログラムを組むときには、基本に忠実にしています。
企業さんからは、現場の様子をよくわかない場合に、大きい木を伐りたいとか、みんなで思いっきり木を倒したいとか言われるんですけど、それは現実には難しいので、真に受けてしまうのではなく作業をしたいんだなと受け止めて、実際に切れる太さの木を間伐するとか、伐った木でお土産にコースターを作って持ち帰りませんかと誘導しています。
難しいものにチャレンジしていくよりは、トーンダウンして試しに一回これをやってみましょうと提案すると、だいたい満足してもらっています。

岡村:企業さんからいただく感想も、満足しました、またよろしくお願いします、という声が多いですね。

野牛:山に行った時点で、インストラクターうんぬんよりも、その場所で何か作業するだけでも十分に満足してもらえています。

─ 企業との森づくりをうまくすすめていらっしゃるのは、企業からの希望をしっかり聞いてうえで、満足してもらえる現実的なプランを提案して、きちんとすり合わせができているからなんでしょうね。
今日は4名の方にお時間をいただき、どうもありがとうございました。