Interview:森づくりコーディネーター✕企業
10年、20年後の後輩たちが、
森の中に分け入る体験ができるように。
森の中に分け入る体験ができるように。
株式会社セブン&アイ・フードシステムズ 総務部サステナビリティ推進 環境部会長 環境カウンセラー/環境プランナー
ストローとの出会いから始まった山梨の森とのご縁
どのような経緯でこの仕事に携わるようになったのですか?
セブン&アイ・フードシステムズには、環境部会という組織が全部署横断的にあります。その運営が、現在の私の主な仕事です。環境プランナーという肩書きもあるもので、部会の業務としての環境政策や、事業特性に基づき何をすべきかなどを企画立案し、また実務も行っています。
この仕事に携わる前は、入社以来ほぼずっとレストラン「デニーズ」の営業部におり、地区マネージャーや業態開発の仕事もしました。2014年に、グループ全体で環境経営に大きく舵取りをするタイミングがありました。例えば環境マネジメントシステムであるISO14001の認証取得や、社員に環境意識を根付かせるためのeco検定(環境社会検定試験)の奨励、グループ全体のCO2排出量の算出とその第三者検証といったことが同時に始動。その際に、環境部会の在り方を見直す中で、そうした取り組みを担当することになりました。
SDGsは2015年からスタートしたので、2014年当時はまだそのような指標もなく、とにかく手探りで始めた感じでした。最初の3、4年ぐらいは、環境への取組の必要性を社内に説きながら進めていく、というのが実態でしたが、ここ数年は社会全体の動きの中で、環境部会の取り組みはやり易くなったと感じています。
森づくり活動を始めようとしたきっかけは何ですか?
きっかけは、ストローでした。脱プラスチックの声が高まり、ワンウェイプラスチックを削減しようと模索している最中に、2018年、海洋プラスチック憲章が採択され、海亀にストローが刺さっている写真が出回って、ストローが海洋汚染の象徴になりましたよね。
デニーズではいち早くドリンクバーに設置していたストローを撤去し、ご要望のある方には PLA(ポリ乳酸、植物由来のプラスチック)のストローをお出しする、という運用に変更しました。その後もより良い素材をと情報を集めていく中、山梨県で FSC認証材のストローが商品化できそうだと環境カウンセラーの関根久仁子さんから聞きました。それで関根さんに山梨県のマイプラ対策室と繋いでいただき、実際に試作品の FSC認証材ストローを使ってみたら、今まで試した素材の中で一番高品質でした。口触りも良くて、「これならお客様に出しても大丈夫だ」と思いました。
島田さんとの出会いから「セブン&アイ・フードシステムズの森」の看板が立つまで
私は3.11の震災の頃に、甲信地域のデニーズの地区マネージャーを2年やっていたことがあり、もともと山梨には少なからず思い入れがありました。県産材ストローのこともあり、なんとか山梨県と環境協定を結べないかと考えていたときに出会ったのが、やまなし森づくりコミッション副会長、島田欣也さんです。島田さんはマイプラ対策室と密接につながっておられ、しかも元々県の職員でいらしたので、一緒に県庁へ行って名刺が足りなくなるぐらい色々な方をご紹介いただきました。
協定を結ぶとしたらお互いどういうことができるか、双方でアイデア出しをする中、県側から、「山梨でつくっているきのこをデニーズでメニュー化できないか」など、たくさんの提案がなされ、その中に森づくりという取り組みもありました。私はそれを聞いて、「セブン&アイ・フードシステムズの森」という看板が立っている様子を勝手に夢想してしまい(笑)、なんとか実現したいと思って動き始めました。
最初に何から始めて、どのように進んできましたか?
まず2021年5月に、山梨県と環境連携協定を締結しました。これは、山梨県とセブン&アイ・フードシステムズとの二者間の協定になります。何を実施していくかは、それぞれの案を入れて、森林についてはこう、県産材の使用についてはこうと具体的な項目を入れた協定書としました。森づくりは、山梨県全体の環境包括連携の中の一つという位置付けなので、先に県との協定を結べたことが、取り組みを進め易くしたと思っています。
やまなし森づくりコミッションの島田さんは山や森のエキスパートで、相談するたびに話がどんどん具体化していきました。当社が「森づくりの候補地が見たい」とお願いしたら、すぐにコーディネートしていただき、北杜市を中心に3、4箇所連れて行ってくれました。
現在私たちは、その時現地で案内をしてくださった地元の藤原造林さんと提携して森づくりを教えていただいています。
出典:セブン&アイ・フードシステムズ 2021/11/22 おしらせ「森林づくりを通じて環境啓発とCO2削減を図ります」より
それから、北杜市との森林整備協定を、市と藤原造林さんと当社、及び所有者である県有財産保護組合との4者で2021年11月に締結しました。5年間の協定で、その後は自動更新となります。やまなし森づくりコミッションさんには仲介、立ち合い役として入っていただきました。
2021年の暮れには除幕式を行い、念願の看板ができました。当社は植樹に先立ち、2022年4月に、森づくりの大先輩であるライオン株式会社様の「ライオン山梨の森」で、事前体験をさせていただきました。ライオン様とは、山梨の森づくりコミッション主催の講演会で、森づくりの先輩と後輩という立場で登壇する機会があり、そのご縁で体験参加をさせていただいたものです。
出典:セブン&アイ・フードシステムズ労働組合「「セブン&アイ・フードシステムズの森」キックオフイベントを開催!」
ライオン様には快く迎え入れていただき、苗床作りなどの実作業から、参加者に向けての注意案内、車両、お昼のお弁当の手配まで細やかに教えていただいて、本当に貴重な体験でした。そのおかげで、私たちが初めて森づくりに臨む際も、参加者への服装の案内から、当日のタイムスケジュール管理までスムーズにできました。森づくりの後輩としてライオン様には心から感謝しています。
個人的には、ノコギリを使っての丸太切りなどがあまりに重労働で、その後1週間動けないぐらい大変でしたが(笑)
南アルプスを望む場所で落葉広葉樹の森づくり
活動場所(森林)を決めた理由を教えてください。
社員を連れて行くには、あまり重装備で山に深く分け入って行くよりも、近くまで車で行けるような場所が良いと思いました。あとは看板を立てることをイメージすると、ほとんど人が見ないような奥深いところより道路沿いにあったほうが目立っていいだろうなと。そうした希望を伝え、いくつか候補地を見せていただいた上で、条件がそろった今の場所に決めました。
ただ実際作業に入ってみて、あれほど傾斜がきつい立地とは正直思っていなかったです(笑)。 しかしいろいろ教えていただく中で、そういう立地だからこそ人の手が入っておらず、企業が自治体と一緒に森づくりをする意味があるのだなとわかるようになりました。
また傾斜地である分、南アルプスもよく見えますし、すごく景色の良い場所です。
御社の森づくりの内容や特徴を紹介してください。
当社の森づくりはまだ始めたばかり。2021年の暮れに除幕式、2022年6月に植樹、同年11月に下草刈り。ここまで3回の活動ですが、それぞれ20人程参加しています。当初は毎回30人~40人位の参加を計画していましたが、コロナ禍で東京から人を連れて行くのが難しく、地元で勤務する人を中心の活動となりました。下草刈りの時は4歳のお子さんから70代の方まで参加しました。今後は社会環境をみながら参加規模を拡大していく予定です。
出典:セブン&アイ・フードシステムズ労働組合
「第2回セブン&アイ・フードシステムズの森づくりボランティアを実施」
植樹した苗は5種類、ヤマザクラ、オオヤマザクラ、ケヤキ、カラマツ、クリです。藤原造林さんから、「こういう森づくりをしたい」「そのためにはこんな植生が良い」などと提案いただきました。我々にはまだ知識がありませんので、植えるときにちゃんと「この苗を植えるのにはこういう意味がある」と説明いただくことで、納得してやらせてもらうことができました。
セブン&アイ・フードシステムズの森づくりの特徴の一つに、労働組合と一緒にやっている点が挙げられます。
なぜ労働組合と一緒に進めることにしたのか。もともと人を集めての体験型の活動は組合が得意とするところです。森林体験は社員のリフレッシュにもつながります。そこで、組合に話をしてみたところ大変前向きで、すぐに「一緒にやって行きましょう」と言ってもらえました。
費用負担も労働組合と会社で半々にしています。コロナ禍で当社に限らず外食事業は大きな打撃を被っており、また組合活動も 2 年以上制限されてきたタイミングでもありました。
労使協同の取り組みとすることで、話が一気に具体化したので、これはすごく良い方法ではないかと自負しています。組合が関わっていることで、活動の継続性も担保されます。森づくりの先輩企業の話を聞いても、まだこうした例は無かったので、労働組合と会社が一緒に取り組むというのは初めてのケースではないかと思っています。
今後の森づくり活動は、他社とのつながりも視野に。
将来どんな森になるか、イメージはありますか?
まだ始まったばかりなので、なかなか出来上がりの想像はつきませんが、看板の隣に記念樹として植えた桜が来年か再来年から咲くようになる、とのお話なので、それが咲いて、少しずつ大きくなるのと比例して他の木も伸びてきて・・となると嬉しいですね。クリとかコナラとか、実がなるのも楽しみです。
今年は6月の初旬と、8月のお盆明けから9月初旬、11月の3回、活動を実施します。昨年、「来年の春ぐらいは結構育っているのが目に見えるはずですよ」と言っていただけたので、6月を心待ちにしています。
これから新たに取り組みたいことは?
今年の活動の中では、先輩企業のライオン様にも参加してもらおうかと思っています。森づくりのアドバイスもいただきたいし、当社の社員が、他の産業の方々と交流ができるというのもいいなと思います。今は、森づくりを進める企業の間で横の連携があまりないので、当社の活動がもう少し軌道に乗ったら、山梨で一緒に森をつくっている企業で緩やかなアライアンスを組んでいけたら、と考えています。
森は1年、2年でできるものではありませんので「10年、20年後の後輩たちが森の中に分け入るような体験ができる場所になるといいね」と組合のメンバーと話しをしています。
これを実現するためには、活動を継続していく「人づくり」が重要です。と言っても、難しいことは考えず、まずは社員を森に連れて行くことですかね。
コーディネーターに期待すること
仲立ちする支援組織、森づくりコーディネーターにはどんなことを期待しますか。
やまなし森づくりコミッションの島田さんたちにやっていただいたように、色々な機会を通じて、企業と地元の皆さまとの「ハブ」になっていただくと有難いと思います。
多くの場合、企業と造林に携わる方々とはつながりがありません。また、ライオン様の例で言えば、森づくりにおける企業の先輩と後輩といった関係も同様です。
私たちがそうであったように、セミナーなどで造林業の方や、森づくりの先輩企業とご一緒できる機会をつくっていただけると助かります。あとは自治体とのパイプ役ですね。
そうしたハブとしての役割を担っていただけると、そこから先は、例えば企業同士が忌憚なく話し合って、意外と容易に「想い」を実現できることもあると思います。実際、やまなし森づくりコミッションの島田さんに県庁まで同行していただきたくさんの方をご紹介くださったところから、色々な展開が始まったわけですから。