Interview:森づくりコーディネーター✕企業
活動場所や実施団体とのマッチング、
森づくりのノウハウ、助言までワンストップで。
かごしま森づくりコミッション会長
森林を健全な形にして次に引き継ぐために、という想いで立ち上げたコミッション。
この仕事に携わる以前は何をされていましたか?
鹿児島県で生まれて育ちました。うちは農業をやっていましたので、大学でも専攻の第一希望は農業だったのですが、入れたのは林業でした。卒業後は鹿児島県に入り、林業技士としてずっと林業に関わってきました。県を辞めてから、少し間を置いて、公益財団法人 かごしまみどりの基金で働くことになりました。ここでは、緑の少年団など森林ボランティアのみなさんと直接関わって、森林の大切さを普及啓発したり、身近な里山の修復をしたりする仕事でした。それで、かごしまみどりの基金に入って5年目、2022年9月に森づくりコミッションを立ち上げました。
かごしま森づくりコミッションを立ち上げた経緯を教えてください。
全国的に地方が過疎化・高齢化する中、これまで森づくりを支えてきた人が少なくなって山が荒れてきています。これからは企業の皆さんやNPO、森林ボランティアの皆さんの力を借りて、森林を健全な形にして次に引き継いでいかないといけない。そのためには、色々な方の力が必要です。一方、企業が自分たちで森づくりに参加しようというケースが増えてきて、実際に森づくりに関していくつかご相談を受けたんです。その時に一番困ったのが、活動を行える適当な場所がなかなか見つからないということでした。
それで、企業の皆さん方のご要望に素早く適切に対応できるようにしなければいけないと思い、県や他の団体にも当たって、体制をつくるためにコミッションを立ち上げました。ちょうど良いタイミングで国の補助事業が始まりまして、県や関係の団体の皆さんにも賛同いただくことができました。
現在、かごしま森づくりコミッションは、かごしまみどりの基金、鹿児島県、国有林を管轄している鹿児島森林管理署、鹿児島県森林組合会と、24のボランティア団体から成る鹿児島県森林ボランティア連絡会。この5者で活動しています。想定される企業の皆さん方の相談に、ほぼすべて対応できるように団体の協力体制はできいていると思っています。 また、元々私どもののところでは、森づくりの担い手を育てるべく、森林に関心を持ってもらうための木こり塾とか、さらに勉強したい人にはチェーンソーや刈払機を使うような研修もおこなっています。森づくりの担い手を育成するのも、コミッションで連携するのも、最初の入り口は一緒なのです。
「100年前の緑の森をつくりたい」~米盛建設との森づくり。
かごしま森づくりコミッションが最初に仲立ちをした企業の森は?
米盛建設という鹿児島でも大手の企業から、相談がありました。「植樹を中心とした森づくりをしたいが、鹿児島市内でどこか良い森はないか、できれば公有林で」というお問い合わせでした。そこで、鹿児島市に相談したところ、良い場所を見つけてくれたので、米盛建設さんと一緒に現地へ行ったところ、気に入ってもらえました。
米盛建設さんは、先代がもともと木に携わる仕事をされていたそうで、「100年前の緑の森をつくりたい」という希望がありました。100年前の森と言うなら、鹿児島の場合はシイ・カシ類を中心とした照葉樹林なんです。さらに、子どもたちが楽しめる森にしたいなど色々な要望があったので、植樹に際しては山林種苗協同組合さんにお願いして、県内に無い苗は大分県から調達してもらうなどしました。結果、イチョウ、モミジ、クリ、サクラなどを含む15種を植えました。すべて九州管内の在来種です。
2022年11月に鹿児島市と米盛建設さんと私どもの3者で協定を締結。この森は鹿児島市の市有林でヒノキ林でしたが、ちょうど伐期に来ていましたので、市が伐採し、その後の再造林を行っています。
その他の森~海岸造成林、千本桜の森構想など。
関わっていらっしゃる企業の森づくりには、他にどんな例がありますか?
コミッションを立ち上げる以前から、かごしまみどりの基金として関わった森づくりは多数あります。たとえば、アサヒビールさんの鹿児島支社は、平成23年に志布志湾の海岸造成林「志布志海辺の森」をつくりました。ビールの売上の一部を寄付いただき、県が海外に造成した更地にマツやウバメガシ、ヒメユズリハなどを植栽して。いまはもう下刈りだけですが、森林ボランティアの皆さんが入って手入れを続けています。
鹿児島信用金庫さんは、県有林の間伐。と言っても、作業そのものは自分たちではできないので、鹿児島信用金庫緑の募金によってNPO法人にやっていただいています。
九州電力鹿児島支店さんは、県内のマツクイムシ被害林における森林再生を目的とした募金をいただきました。最初、「海岸の松林を再生させたい、苗木を提供するからマツを植える場所と植える人たちを紹介してほしい」と相談がありました。そこで私どもが海岸線のある市町村に声をかけ、場所と人、つまりは緑の少年団や地元のボランティアさんなどの、段取りをして、苗木を斡旋して、苗木代だけを九州電力さんに出していただき、1000本植えました。
昨年新しく相談があったのが3社。その内の1社は肥後産業さんというトラック運送業界では大きな会社です。「創業50年を記念してぜひ我が社も森づくりをやりやりたい」とご相談をいただきました。この会社は自社有林があり、そこに「千本桜の森」を造成したい、広葉樹とサクラの混植に仕上げて遠くから見ると緑の中に白が映える、あれをつくりたいというんです。面白いですよね。社員さんや取引先も参加されて第1回植樹際が昨年行われました。
企業へのPR,働きかけはどのように行っていますか?
コミッションを昨年9月に立ち上げましたので、その仕組みや役割、企業の森づくり事例などをPRするホームページを今年立ち上げました。また、「かごしま森づくりコミッションがお手伝いします」というイメージの広報を南日本新聞、地元紙にも出稿しました。今、パンフレットも作成中です。新しいPRの方法も考えなければいけません。やまなしコミッションさんがシンポジウムをされたということなので、そういうのもありかなと思っています。
課題の一つは、私有林を再造林することへのフォローアップ。
今後について考えていること、計画などはありますか?
これまで、かごしまみどりの基金としてやってきた森づくりの実績をもとに、今後はよりパワーアップしていきたい。かつ、森づくり活動だけではなくて、地域の皆さんとの交流も大事にしていきたいと思っています。
そして、いま本当に困っているのは私有林なので、そこを斡旋できるようにしてくことも重要な課題です。鹿児島では、森が伐期を迎えて伐採が盛んに行われていますけど、再造林が行われず、結局そのまま放置されているケースが多い。そういった問題もありますので、とりあえず「私有林情報のデータベースをつくりましょう」と言っています。
楽しかった、苦労したなど心に残っていることがあれば。
森づくりに参加した子どもたちとか、家族とか、終わった後の顔が素晴らしいですね。充実感いっぱいという感じです。「参加して良かった」という声も聞きます。そういう体験を通じて、森の応援団が増えていくのが嬉しいです。