Interview:森づくりコーディネーター✕企業
とにかく森は大切だから、やりなはれ!
NPO法人森のライフスタイル研究所 隊長(代表理事所長)
森と企業を結ぶことこそ、僕らの生きる道
この仕事に携わる以前は何をされていましたか。
竹垣:もともとは森にはまったく縁がなく、大学は商学部で、自分でビジネスを始めてからは六本木や銀座を飲み歩いていました。2000年頃の夏、都庁の近くを歩いていたらとても暑くて、「緑が少ないな、じゃあ木を植えよう!」と思ったのが森に関わるきっかけでした。最初は都市緑化を考えたのですが、「適地適木」という考え方が都市部にはないと言われ続け、東京農工大の岩岡正博先生に辿り着くことができたとき「森には適地適木という考え方がある」とはじめて教えられ、その瞬間に森をめざしました。それで、2003年に建設会社、設計事務所、保険会社の仲間と僕と4人で、NPO法人森のライフスタイル研究所を立ち上げました。
企業との仲立ちをはじめたきっかけ、経緯を教えてください。
竹垣:NPOを立ち上げた2003年の頃はまだ「NPOとは何者か?」という社会環境でした。一方、自分でビジネスをしていたので、企業とのお付き合いは日常的にありました。それで、企業からお金をいただくには、「課題解決」が一番だと考え、企業が困っていることをまず聞いて、僕らのNPOではこれができますと提案していきました。初めから「森づくりをしませんか」ではなく、「困っていること、課題は何でしょうか」とコミュニケーションを図っていきました。
最初は長野県の「森林(もり)の里親制度」の活用でした。長野県とはすでにバイオマスエネルギーでつながりがありました。森林(もり)の里親制度というのは、割と自由度が高くて色々な協定の形が許され、僕らとしては大きな負担が少ない形で「県の制度で協定を締結する」という実績をつくることができました。
僕らが協定を結んだ森に、八十二銀行さんやコスモ石油さん、グローリーさんなどの従業員参加型ボランティア活動を誘致したのが、企業との関わりのスタートです。日本コカ・コーラさんの「いろはす“地元の水”応援プロジェクト」での長野県のパートナーとしての取り組みも生まれました。また、前田建設工業さんの長野県での「企業の森」の開設のサポートもしました。
あるときに気がついたんです。僕は森のことをちゃんと学ばなければいけないけど、学んでもわからないこともある。一方で世の中には林業関係の人や森のプロフェッショナルがたくさんいる。それならその人たちの力を借りて森づくりをしよう。そこで僕は仕事づくりをしようと。
そんな風に森づくりのプロの手を借りながら、森と企業を結ぶことこそ僕らの役割だと。
株価が上がる森づくり?
企業の森への関わり、最近の傾向は?
竹垣: その森づくりの担当部署がどこなのかによっても、求める答えが違うし到達地点も違うので一概には言えませんが、「株価が上がる森づくりがいいんだけど・・・」みたいなことも言われるときがあります。半ば冗談みたいですけど、それってつまりは企業価値を高めるということに置き換えることができます。
あと、森づくりだけでなく、地域でピザ作り体験や酒蔵見学をしたり、道の駅で買い物したりしてお金を落とす、地域経済に寄与したい、地域と連携したいという傾向もあります。
企業へのPR、働きかけはどのように行っていますか?
竹垣:コロナの前は、企業が集まるところによく顔を出していました。セミナーとか勉強会とかに参加して、勉強して、グループワークなどで企業の方たちと出会う機会があり、一回参加すると30、40社と名刺交換や交流ができます。そこで企業の方から課題をうかがったり、僕らの実績をご紹介したりもできますし、ネットワークづくりには最適でした。
時代と共に変わるニーズを捉え、森の一等地を押さえる
企業の森の活動状況を教えてください。
竹垣:僕らが仲立ちをして企業の森の看板を立てたのは15件ぐらいあると思います。長野の「森林(もり)の里親制度」に始まり、プログラムだけ提供しているものも含めたら50ぐらいはあるんじゃないでしょうか。
企業から色々な問い合わせをいただくので傾向が見えてきます。「今はこういうものが好まれているんだ」と嗅覚がはたらくので、それに対応できるフィールド(森)を準備しておきます。具体的には、自治体等の森との協定を僕らが予め締結しておく。そこに後から企業が入れるように地ならしをしていくと時間のロスがなくてスムーズに話がすすみやすいと思います。ある意味、不動産デベロッパーと同じです(笑)。いい場所は限られますから、企業の人たちが活動しやすい「森の一等地」をまず押さえておく。そうやって、時代と共に変わるニーズを拾いながら仲立ちをしています。
埼玉県秩父市で「オリコの森プロジェクト」を展開
企業さんとの具体的な協定事例について教えてください。
「オリコの森」は、埼玉県秩父市の吉田という地区、西武秩父の駅から車で1時間ぐらいの場所にある、5.29ヘクタールの森です。もともとカラマツ林だったところで、手が入っていなくて荒れていましたが、樹種も多く、起伏も平坦なところもあって、色々な取り組みができそうでした。マイクロバス2台で40〜50人ぐらいは安全に活動できるスペースもあります。
秩父市が所有する森で、森林計画書の中で「混交林にして行きたい」というのがあったので、こちらからは「カラマツ林を、既存の造林技術により、カラマツと広葉樹の混交林へと造成しなおし、森林の再生を図る」という提案をして承認されました。
契約は、オリコさんと埼玉県と秩父市の三者協定により「埼玉県森林(もり)づくり協定」を締結。僕ら森のライフスタイル研究所はオリコさんと業務委託契約を結び、森林内の整備作業やプログラムを提供しています。
2020年11月から森づくり活動を始めて、年に2回春と秋にオリコさんの社員が参加。1年に1ヘクタールずつ、既に4ヘクタールぐらい、カエデ、ミズナラ、ヤマザクラなどを植樹しました。他にも間伐、下草刈りや散策路の整備をし、そこに炭をいれながら土中環境整備もしています。飽きが少なく、達成感があるプログラム企画をめざしています。
参加した方が「もうちょっとやりたかったからまた来よう」と思うプログラムを
そのプロジェクトはどんなふうに始まってどう展開しましたか。今後の計画は?
竹垣:もともとオリコさんとは「木づかいプロジェクト」という間伐材でおもちゃや楽器をつくるプログラムで5年ぐらいお付き合いがあり、2019年に「会社として目玉となる環境・社会貢献活動を」ということで、「本社別館のある埼玉県で植樹したい」と相談がありました。そこで、埼玉県の森づくりについていろいろな角度から調査し、秩父市での森づくりが最適解と判断し、そのあと、秩父市の担当部署の方と話をすすめ、2箇所の候補地をご紹介いただき、実際にその森に足を運びました。そして、吉田という地区の森を森ライ案としてオリコさんに提案。最終的にオリコさんも現地に足を運ばれて動き出しました。
「オリエントコーポレーションの森林づくり」から
埼玉県森林づくり協定締結式の様子(令和2年7月8日)
2020年7月には「埼玉県森林(もり)づくり協定」をオリコさん、埼玉県、秩父市の三者で締結。11月には、除幕式と「カエデ」の記念植樹を行い、オリコの森の看板を立て、「オリコの森プロジェクト」が開始となりました。その後、年に2回春と秋にオリコさんの社員が15名ずつぐらいの規模で参加されて、植樹、間伐、散策路の整備、土中環境整備などを行っています。
作業の中でも間伐は結構ハードです。チェーンソーは使わずノコギリで伐る体験をしてもらっています。「わずか数時間でもこれだけ大変だったんだから、毎日森で働いている専門家の人たちはどれほど大変なんだろう。多少高くても木のものを買おう。」と思いを馳せて欲しいから。
僕らが担当しているのは、活動プログラム、作業道具と仮設トイレの手配、保険など多岐に渡ります。活動時はいつも救急救命士か看護師に同行してもらっています。慣れない内容でかつ野外でのボランティア作業になるので、危険度は増します。救急対応の専門家を同行させていくことで、企業さんも安心してくれています。
今後は、継続的に参加する人のことを考えると、プログラムにちょっと変化をつけたりして行きたいと思っています。また、参加者の中でもがっちり作業をしたい人もいれば、楽しみたい人もいて温度感がさまざまなので、たとえば午前中は全員でしっかり作業をして、午後は「ガチ派」と「エンジョイ派」に分けて活動するなども良いかもしれません。とにかく、一日楽しかった、勉強になったと笑顔で帰ってほしい。「もうちょっとやりたかった」から来年もまた来ようと思ってほしい。卒業してしまわないようなやり方を常に考えています。