Interview:森づくりコーディネーター✕企業

森づくりの入り口のハードルを下げ、多様性あるコミュニティを。
株式会社ソマノベース 企画・セールス
森づくりへの入り口のハードルを下げるサービスを。
どんなお仕事をされていますか?
松下:ソマノベースという会社の法人事業部で、主に企業さんに対しての営業や、森に関わる企画をご提案させていただいたり、行政自治体の方の事業立ち上げ支援を行ったりしています。
ソマノベースは、土砂災害の人的被害をゼロにするというミッションのもと、林業と他業界を繋ぐようなプロダクトやサービスを提供している会社です。事業としては、主にオフィスやご家庭で植樹用苗木を育て森に還す「MODRINAE(戻り苗)」というサービスがあり、そこから派生して研修ワークショップの事業、ツアー、林業界の方に向けた広報支援なども行っています。

この仕事に携わる以前は何をされていましたか。
松下:スタートは林業とは無関係で、同志社大学商学部でソーシャルマーケティングを学び、社会課題を商学部の観点で解決していくことをゼミで研究していました。そこで、現ソマノベース代表の奥川と一緒だったんですけど、卒業してから僕はパーソルキャリアという人材紹介、転職支援の仕事に就きました。そこでは、ニッチな部分をぐっと広げていくみたいなところにやりがいを覚えましたが、5年目を迎えた頃、良くも悪くも業務がシステマティックになっていくにつれ、自身の介在価値を感じることが減っていきました。
そんな時、奥川が起業し、デザイナーとかプログラマーとか色々な異業種の若者が集まって「林業界を変えていきたい」との思いでソマノベースが立ち上がったことを知り、その一員になりたいと思って転職。和歌山県に移住してきました。
前職のときから僕は、「本当は救わないといけない産業が救われなくなってしまう」ということに違和感がずっとあったので、林業というのが自分の中でフィットしたのだと思います。
ほっかいどう企業の森林づくりに関わるようになった経緯は?
松下:「ほっかいどう企業の森林づくり」に関わるようになったきっかけは、2022年9月の展示会にソマノベースが出展した際、ブースに北海道庁さんが来てくださって、「MODRINAE(戻り苗)」を知っていただいたことです。なぜ道庁さんが関心を持ってくださったのか。その理由は次のようなお話でした。
道庁さんに企業さんから、「ほっかいどう企業の森林づくりに参加して何かしら森づくりをしたい」というお問い合わせがしばしばあり、その多くが「植樹をしたい」という内容。でも、植樹できる場所というのはすぐに見つかるものではない。企業さんのご要望にマッチする候補地を見つけるのはなかなか難しく、1〜2年間の猶予が必要。ただ、その検討期間が保留になってしまうと、機会損失があるかもしれない。その点、「MODRINAE(戻り苗)」なら、企業さんには植樹に備えて1〜2年間オフィスで苗木を育てていただき、その間に道庁さんは植樹候補地を探すことができる。これは、企業さんにとって森づくりへの入り口のハードルを下げることにつながる…
ということで、「MODRINAE HOKKAIDO(戻り苗 北海道)」がスタートしました。

産官連携の新たな森づくり「MODRINAE HOKKAIDO(戻り苗 北海道)」、始動
そのプロジェクトは、どんなふうに始まってどう展開しましたか?
松下:産官連携の新たな森づくり「MODRINAE HOKKAIDO(戻り苗 北海道)」は、北海道庁・民間企業6社とともに、各企業のオフィスで植樹用苗木を育て森に戻すプロジェクト。2023年11月から1年生の苗木でスタート、1年間育てていただくということで、「ほっかいどう企業の森林づくり」に参加されているJT北海道支社さん、北海道電力株式会社さんをはじめ、北海道コカ・コーラボトリング株式会社さん、エスビー食品株式会社さん、札幌テレビ放送株式会社さん、株式会社北海道アルバイト情報社さん(順不同)の合計6社のみなさまに実証実験のご協力をいただきました。
ソマノベースは、企業さんへの導入の支援から育苗のサポート、新たな企業さんへの営業などを行っています。参加企業さんのオフィスなど室内で苗木がちゃんと育つか、植樹まで持っていけるかを検証しています。
スタート段階の苗木は、落葉した状態なので、ちゃんと芽吹くかな?大丈夫かな?という風だったんですけど、実際、そこから少しずつ芽吹いてくるんですよね。でも、企業さんによってオフィスの環境、明るさも温度も湿度も違うので、あちらでは芽吹いてきているのに、うちは芽吹いてないとか、お互いに訪問されて生育状況や環境などを視察されていたようです。そういった参加企業さん同士が情報共有や交流できる場づくりなども、今後は行っていきたいと思っています。


ラダーシェルフで行われたMODRINAE HOKKAIDOの実証実験の様子。
苗木は北海道の自然植生に合ったイタヤカエデやミズナラなど6種類、ラダーシェルフは北海道産のトドマツを採用。
(写真左:落葉している状態、写真右:発芽した様子)
このプロジェクトの展開ですごく面白いと思っているのは、多様な視点のコミュニティが広がってきていることです。参加企業さんが一斉に進めているので、それぞれの森づくりのあり方を意見交換したり知見を交換できる機会は今後必ず作りたいなと思いますし、あと、木を作っていただいているフィールドギフトさんは木の観点から、苗木業者さんは苗木の観点から、一緒に訪問しに行ったりもするんですよね。さらに、北大発のスタートアップのエゾリンクさんも生物多様性の観点から助言をいただいたりと、我々の観点だけじゃなくいろんな方の視点が入ってきていて、それらを踏まえて判断しながらやっていける感じになっています。協力いただける方がどんどん自然に増えてるなっていうイメージです。

もちろん、実証実験なので課題は山積みです。企業さんで育てた苗が無事に育ったとして、植樹したら終わりということではないですし、山に還った後の成果もまだわかりません。参加いただいた企業さんに対して何らかの価値をしっかり還元していくこと、道庁さんの「ほっかいどう企業の森林づくり」制度への新規参加を集めることも課題と捉えています。
人と森の距離を近づけていく。多様性のあるコミュニティで実現する。
今後について考えていること、計画などはありますか?
松下:「MODRINAE(戻り苗)」って、簡単に言うと、森と人との距離を近づけていく一つのツールなんです。やっぱり都会では、山に行くとなると物理的な距離のハードルがある。心理的な面では、育てるところからスタートすれば愛着がわくし、山に関心も持っていただきやすい。そういう“意識”も育てるという意味も含め、人と森との距離をしっかり近づけていくってことができるんじゃないかと可能性を感じています。

これは私のやりたいことでもあり、ソマノベースとしても最近すごく大事にしていることなんですが、森づくりとか森林保全ってどちらかというとボランティアとかCSRみたいな位置づけになることが多いですよね。一方で、企業さんの活動では社会的な価値も、経済的な価値も重要で、企業さんにかかわっていただく以上は、持続可能で事業に親和性を持たせられるように、しっかり還元できるプロジェクトや取り組みにしなければと思っています。
と同時に、育てる責任とか植える責任とか、その前段階の苗木を生産・供給する側のことを理解するとか、まだまだ考えなければいけないことはたくさんあるので、そういったことを学び合える交流会とかセミナーなども行っていきたいです。
色々な専門家の方やその知見を入れていくことで、森づくりについて多様性をもって提案できるチームをみんなで作っていきたいと思います。
