森づくり基礎知識
森の遷移と手入れ作業
辞書によれば「森」とは、(まわりの様子から浮き上がるように)樹木がこんもりと生い茂っているところ、とあります。樹木が集合的に生えているところを「森」と呼ぶわけですが、裸地だったところから長い時間をかけて自然の力で植生が遷移したのちに成立する「天然林」と、最初から人が苗を植えて育てる「人工林」(育成林とも呼ばれる)があります。
天然林の植生遷移
南北に長い日本列島では、気候地域によって多様な樹種が育ち、多様な森林が成立していますが、以下は本州でよく見られる植物種を中心とした植生の遷移です。
このうち、里山に多く見られる「雑木林」では20~30年ほど育った木を伐採して炭などのエネルギーや木材として利用したり、落ち葉を集めて田畑の肥料にしたりしました。切り株や落ちた実から、自然に萌芽して育つ木を20年ほどのサイクルで伐っていたので、林内は比較的明るく維持され、陽の光を好む落葉広葉樹が育ちます。今、多くの人がイメージする日本の森といえば、この落葉広葉樹の里山林か、スギ・ヒノキなど針葉樹の人工林ではないでしょうか。
これに対し、「照葉樹林こそ日本らしい森」という人々もいます。九州・沖縄など温暖な地域や、本州でも古い社寺の森林などに、植生が遷移しきって照葉樹林となり、安定した状態(極相林)の森が多くみられます。照葉樹林は全国的に減少の傾向にあると言われていますが、特に古くから続く森では、豊かな生物相を有しており、未来世代に残したい貴重な環境資源です。
天然林の手入れ作業
日本の林業はこれまでスギ・ヒノキなど、主に木材として伐採・利用しやすい針葉樹の人工林を育ててきたため、広葉樹人工林の施業情報はまだ少ないのが実情です。しかし、近年は手入れの行き届かない人工針葉樹林を針広混交林化や広葉樹林化をして、天然林に近づけようという動きが活発になってきており、今後は天然林の施業についての情報も広く共有されていくようになると思われます。現在入手できる作業資料については、いくつかの参考資料をご紹介します。地域、樹種、利用目的によって多様な施業方法があるので、目的にあった情報を選んで参照してください。
関連資料
- 林野庁:森林総合監理士(フォレスター)基本テキスト (令和4年度版)よりp.59「第5章 広葉樹林施業」(PDF)
- 林野庁:「里山林の広葉樹循環利用のすすめ」
- 林野庁:「国有林における森林整備 」ぺージ内「国有林野事業における天然力を活用した施業実行マニュアル(平成30年3月)」より「天然更新の基本」(PDF)
- 森づくりフォーラム:「森づくり活動の参考データ・情報」ページ内「広葉樹林施業ガイドライン」(2012年発行(PDF))
人工林の植生遷移
日本の森林面積のうち約4割を占める人工林は、人の手で植え、育てられた森林で、その多くはスギ・ヒノキなどの針葉樹林です。ある程度の密度で苗を植え、下草やつる植物などを除きながら、良い木材になるようまっすぐ育てます。時期がきたら間伐をしてさらに太く育ててから、伐採して収穫し、伐採後にまた植える、というサイクルで維持されており、自然の力による植生遷移が起こらないように管理します。
こうした人工林は、一般に育成林とも呼ばれ、50年生を超える人工林面積が10年前の2.4倍に増加し利用期を迎えています。また、人工林が高齢化すると、森林吸収量が減少していくので、森林吸収量と、木材利用による炭素固定量を確保することのできる、森林の世代交代が必要だと言われています。利用期を迎えた人工林を伐採、植替等の森林の循環利用を行い、若い森林を造成していくことが大切となります。
人工林の手入れ作業について
針葉樹人工林の施業に関しては、ある程度全国的に認知された基本情報があります。造林、保育、伐採という森林施業における、苗木の植え付けから下刈り、枝打ち、間伐までの手入れ作業について。人工林での森の遷移と主な管理方法を簡単に説明します。
(-2〜3年)苗木の栽培
一度に植えて育てていく単層林(一斉林)は、苗木を種子から育てる場合は2~3年、さし木の場合は1年、苗畑で育てます。
(0〜1年目)植え付け
苗木を植える前には、切った木の枝や刈り払ったかん木などを片付けて「地拵え」が必要です。植え付けは、1.5~2m間隔で行います。苗木が成長を始める直前の春先に行うことが多いですが、秋に植えることもあります。
(1〜10年目程度)下草刈り・ツル切り・除伐、雪起こし
植え付けた後数年間、苗木は成長の早い草などに覆われてしまい、そのままだと苗木は成長できません。そこで、「下草刈り」といって、毎年夏に草などを刈り払います。
植えた木以外の低木なども生えてきますので、それらの木々を取り除く「除伐」が必要です。
また、木に巻き付くツル植物を放置しておくと木は成長できません。それらを取り除くのが「ツル切り」です。
雪などで倒れた若い木を引き起こす「雪起こし」作業は、春に行います。
写真左:下刈り作業の様子、写真右:除伐作業の様子
(15年目程度〜)枝打ち・間伐
伐採した木を柱材などに加工したとき、その表面に節が表れないように枝を切り落とす「枝打ち」という作業も、合間に行います。
また、木が成長すると林内は混み合ってきて、そのまま放置すると過密状態になり、太陽の光が届かなくなり、1本1本の木が成長することができなくなってしまいます。そこで、木の成長に応じて林内の木の数を調整していく「間伐」も必要に応じて行われます。間伐を怠ると、木の成長が悪くなるばかりか、ひょろ長い木ばかりになり、強い風や大雪で木が倒れてしまうことがあります。
写真左:枝打ち、写真右:間伐
(40年目程度〜)主伐
長年にわたって育ててきた木の収穫作業として「伐採」が行われ、再生産可能な循環型資源としての木材の利用が進められます。収穫の方法については、一度に全部切ってしまう皆伐と、一部分ずつ切った後に新しい苗木を植える方法も行われています。
伐採を行った後は、再造林を着実に行いつつ、森林資源の適切な管理・利用を進めることが必要です。多様で健全な森づくりをめざして、地域の自然条件、植生に応じた複層林化、針広混交林化や広葉樹林化*1なども各地で進められています。
*1:針葉樹一斉人工林を帯状、群状等に択伐し、その跡地に広葉樹を天然更新等により生育させることにより、針葉樹と広葉樹が混在する針広混交林や広葉樹林にすること。